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エンジンの慣性力と慣性偶力の概論

2024年01月15日(月) 12時02分更新 icon 項目のみ表示/展開表示の切り替え

単気筒エンジンの往復運動部の慣性力について

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クランクシャフトを中心とし時計の針の12時の位置から右回りのクランクシャフトの角度をθとする。
クランクピンが水平方向の位置に来ているとき、ピストンはストロークの丁度半分の位置に来ていると思われるが実が違っている。
下のグラフをみるとわかるとおり、クランクピンが水平位置(θ=90度)に来ているときのピストンピンの位置はコンロッドが傾いているのでストロークの半分より下側に来ている。
これによりピストンが上昇するときと下降するときで速度が異なり、アンバランスの原因が発生する。
角度θ=

θ SVGの代替画像 0306090120150180210240270300330360x

クランクシャフトからの上下方向のピストン位置

s:ストローク
λ:l/s 連桿比(れんかんひ)の1/2
l:コンロッド長さ=λs
クランクピンの横方向の位置は
s2sinθ
鉛直線とコンロッドがなす角度をβとおくと上死点からピストンピンまでの距離は
x=s2(1cosθ)+λs(1cosβ)
lsinβ=s2sinθ
sinβ=s2lsinθ=sinθ2λ
cosβ=1sin2β=1(sinθ2λ)2
=1sin2θ4λ2
x=s2(1cosθ)+λs(11sin2θ4λ2)
平方根が含まれるので、平方根を含む式を級数展開すると以下の通りとなる。
Y=(1X)=1X2X28X3165X41287X5256
X=sin2θ4λ2
を上式に代入して解く
x=s2(1cosθ)+λs(sin2θ24λ2+sin4θ842λ4+sin6θ1643λ6)
=s2(1cosθ)+λs(sin2θ8λ2+sin4θ128λ4+sin6θ1024λ6)
xs2(1cosθ)+λs(sin2θ8λ2+sin4θ128λ4+sin6θ1024λ6)
sin2θ=1cos2θ2
sin4θ=34cos2θ+cos4θ8
sin6θ=cos(6θ)+6cos(4θ)15cos(2θ)+1032
6乗については、Xmaximaを使用して解きました。

(%i1) trigreduce( sin(x)^6 );
        - cos(6 x) + 6 cos(4 x) - 15 cos(2 x) + 10
(%o1)   ------------------------------------------
                             32
xs2(1cosθ)+s16λ(1cos2θ)
+s128λ334cos2θ+cos4θ8
+s1024λ5cos6θ+6cos4θ15cos2θ+1032
=s2(1cosθ)+s16λ(1cos2θ)
+3s1024λ34s1024λ3cos2θ+s1024λ3cos4θ
s32768λ5cos6θ+6s32768λ5cos4θ15s32768λ5cos2θ+10s32768λ5
=s2(1cosθ)+s16λ(1cos2θ)
4s1024λ3cos2θ15s32768λ5cos2θ
+21024λ3cos4θ+6s32768λ5cos4θ
s32768λ5cos6θ
+3s1024λ3+10s32768λ5
次数が大きくなれば急速に分母が大きくなる。通常完全バランスというのは2次慣性力まで扱うので、通常は以下の式が使われる。
xs2(1cosθ)+s16λ(1cos2θ)

ピストンの速度

ピストンの速度は、ピストン位置を微分したものである。
エンジン回転数をn(rpm)と置くと
ω=πn30
x=s2(1cosθ)+s16λ(1cos2θ)
v=dxdθ=ωs2sinθ+ωssin2θ8λ
=ωs2(sinθ+14λsin2θ)
2次以降も含めると以下の通りとなる。
=ωs2(sinθ+14λsin2θ)
+ωs2(8s1024λ3sin2θ+30s32768λ5sin2θ
8s1024λ3sin4θ24s32768λ5sin4θ
+6s32768λ5cos6θ)

ピストンの加速度

ピストンの加速度は、ピストン速度を微分したものである。
v=ωs2(sinθ+14λcos2θ)
a=ω2s2(cosθ+12λcos2θ)
2次以降も含めると以下の通りとなる。
a=ω2s2(cosθ
+12λcos2θ+164λ3cos2θ+154096λ5cos2θ
132λ3cos4θ31024λ5cos4θ
+98192λ5cos6θ)

ピストンの往復運動に伴う慣性力

ピストンの加速度に往復部の重量(M)を乗じたものである。
a=ω2s2(cosθ+12λcos2θ)
F=Ma=Mω2s2(cosθ+12λcos2θ)
2次以降も含めると以下の通りとなる。
F=Ma=Mω2s2(cosθ
+12λcos2θ+164λ3cos2θ+154096λ5cos2θ
132λ3cos4θ31024λ5cos4θ
+98192λ5cos6θ)
=Ma=Mω2s2(cosθ
+(12λ+164λ3+154096λ5)cos2θ
(132λ3+31024λ5)cos4θ
+98192λ5cos6θ)
VQ30DEエンジンの場合、書籍 日産V型6気筒エンジンの進化 P133,P126によると以下の緒元である。
ボア 93.0mm
ストローク 73.3mm
ピストン重量  490g
コンロッド重量  550g
コンロッド中心間距離 147.15mm
往復部重量  673g(ピストン+コンロッドの1/3)
ボアピッチ 108mm
バンク間オフセット 40mm
連桿比 147.15/(73.3/2)=4.02
上記の式にVQ30DEの緒元を当てはめ、1次慣性力を100とすると高次の慣性力は以下のとおりである。
1次慣性力   100
2次慣性力   12.46
4次慣性力   0.04882
6次慣性力   0.000105
高次になるほど急速に慣性力が小さくなるのがわかる。
慣性力はエンジンの回転速度の二乗に比例して大きくなり、ストロークが少ないほど、連桿比(れんかんひ)が大きいほど小さくなる。
高回転向きのエンジンでは、ピストン速度を抑える意味もあり、ショートストロークとし、連桿比を大きくとる。

単気筒エンジンに対するバランスウェイト

クランクピンやクランクのウェブ等が回転すると遠心力が発生する。まず、これを打ち消すためにクランクピンと反対方向にウェイトを設置する。
さらに往復運動に伴う慣性力を打ち消すためにウェイトを追加する。
ピストンが上死点時の時の往復部分の慣性力と回転部分の遠心力とウェイトによる遠心力が釣り合っている時をオーバーバランスが100%である。
この時、往復部分の慣性力は釣り合っているが、左右方向にはウェイトの遠心力が慣性力と同じ分発生してしまうので通常は、オーバーバランス100%にはしない。
ウェイトの重量をMw、ウェイトの重心までの距離をrwとすると遠心力は以下の通りとなる。
Fw=Mwω2rw
遠心力を鉛直分力Fwvと水平分力Fwhに分解する。
Fwv=Mwω2rwcosθ
Fwh=Mwω2rwsinθ

多気筒エンジンの慣性力

通常、点火を等間隔にさせるため、N気筒のエンジンの場合、各気筒の角度差は4π/Nとする。
任意の次数に対する各気筒の慣性力の三角関数部分の合計は以下の式で表せる。

直列エンジンの各気筒の慣性力の合計

点火が等間隔の場合、n次の慣性力は以下の式で表せる。
h=4πN
S=cosnθ+cosn(θ+h)+cosn(θ+(h(N1)))
=sinNnh2sinnh2cosn(θ+N12h)

sinNnh2sinnh2=sin2πnsin(n2πN)
が0になる条件は、
u=2nN
上記の式でuが整数である場合である。
各直列エンジンに当てはめ求めると以下の通りとなる。
気筒数 1次 2次 4次 6次
2 1 2 4 6
3 0.66667 1.33333 2.66667 4
4 0.5 1 2 3
5 0.4 0.8 1.6 2.4
6 0.33333 0.66667 1.33333 2
uが整数の場合、慣性力がキャンセルされていない。
慣性力がキャンセルされない場合は、すべての気筒が同じ方向に慣性力が働いているので慣性力は単純に単気筒の気筒数倍となる。
奇数気筒エンジンは、振動の次数が多くなっても、360度の倍数とならないので、慣性力が高次までキャンセルされる。
しかしエンジンの前後方向が対称でないため慣性偶力が発生する。
ちなみに1次でバランスしているエンジンに付加するウェイトはカウンタウェイトと呼んでいる。
完全バランスの直列6気筒ではウェイトなしでエンジン全体としては慣性力が働かないが、シリンダごとに見れば慣性力が働きシリンダを揺り振動や曲げ振動を生じさせる。特に長いクランクシャフトの場合は問題になる。これらを低減するために、エンジンがバランスしていてもシリンダごとにウェイトを設ける。

V型エンジンの慣性力

直列エンジン傾けてを2個連結したエンジンとして解析できる。
まず、各バンクの上死点下死点方向の慣性力を求め、鉛直方向の慣性力を求める場合はcos(α)を乗して左右バンクを加算すればよい。
水平方向の慣性力を求める場合はsin(α)を乗して左右のいずれかの符号を反転させて加算すれば良い。
R Rh Rv α L Lh -Lh Lv α 0 x y SVGの代替画像
αがバンク角の半分の角度、Lが左側の上死点下死点方向の力、Rが右側の上死点下死点方向の力、LhはL水平方向の成分、LvはLの鉛直方向の成分、RhはR水平方向の成分、RvはRの鉛直方向の成分を表す。
各成分は以下の式で算定できる。αが30度の場合も示す。
Lh=Lcosα=32L
Lv=Lsinα=12L
Rh=Rcosα=32R
Rv=Rsinα=12R
水平方向を合成する場合、例えば右側の力を正とする場合、左側は反対向きなので、符号を反転して加算する。

多気筒エンジンの慣性偶力

エンジンの前後方向の中心に対して、前後のシリンダが対称の動きをしていない場合、エンジンの前後方向中心に対してエンジンが前後に揺れたり、左右に揺れたりする。
1 2 3 a a SVGの代替画像
例えば直列3気筒エンジンの場合、前後方向の中心は2気筒目である。1気筒目に対して3気筒目は120度遅れて上死点となる。
エンジン前部すなわち1気筒目の上死点方向を(+)としてエンジンの中心に対して回転させようとするモーメントを計算する方法は以下のとおりである。

1気筒目

中心に対してボアピッチa分の距離がある。
一次慣性力の三角関数部分のみ抽出すると
cosθ
モーメントは、力×距離なので、
M1=acosθ

2気筒目

中心に位置するため距離が0なのでモーメントは発生しない。
M2=0

1気筒目

中心に対してボアピッチa分の距離がある。
1気筒目を基準にしており3気筒目の動きは1気筒目を中心に対して逆方向に動かそうとする力なので符号を逆にする。
一次慣性力の三角関数部分のみ抽出すると
cos(θ13π)
モーメントは、力×距離なので、
M3=acos(θ13π)

エンジン全体の1次慣性偶力

各気筒のモーメントを合計すると
M=M1+M2+M2=acosθacos(θ13π)
=a3sin(θ13π)
エンジンの回転に合わせてエンジンが前後にシーソのように動くことが式からわかる。
実際の偶力は
Mω2s2a3sin(θ13π)
となる。
Mは1気筒あたり往復部の重量である。
この様な偶力は、直列エンジンでは奇数気筒のエンジン、V6、V8、V10で発生する。
一次偶力を打ち消すために、前後の気筒のカウンタウェイトを大きくしたりバランスシャフトを用いる。