星形エンジン

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概要

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星形エンジンは、第二次世界大戦の飛行機に主に採用されたエンジン形式です。
シリンダが放射状に配置されているのが特徴です。3気筒から28気筒まで存在しています。
一列の星型エンジンではクランクシャフトが単気筒エンジンと同じ長さになります。
仮に直列エンジンやV型では長大なクランクシャフトとなり、エンジン製造技術の低い時代では捩じり剛性を高めづらく製造不可能でした。
ここでは零戦等に搭載され第二次世界大戦中で日本で一番製造された星形エンジンである栄21型エンジンを例に説明します。
零戦に搭載された栄21型エンジンは、1列当り7気筒で2列ですので14気筒となります。排気量は27.86Lと巨大です。
出力は、2750rpmで約1100馬力です。
動弁機構はOHV、1シリンダ当たり2プラグ、遠心力式の過給機を使用しています。
光3型エンジン(星形9気筒)

コンロッド

ピストン マスターロッド サブロッド SVGの代替画像
星形エンジンのコンロッドはマスターロッドがクランクシャフトに接続されており、その他のコンロッドはマスターロッドに接続されています。
サブロッドはマスターロッドに接続されているので、折れ点が一か所増えしかもマスターロッドの傾きの影響を受けるため、各気筒において、コンロッドや大端部位置を調整する必要がある。

各気筒のサブロッドの長さ及び取り付け半径を同一にした場合

小端部の位置

例えば、ストローク150mm、マスターロッド長を280mm、マスターロッドのサブロッドの取り付け半径を65mmとした場合、各気筒の上死点の位置は以下の様になります。
1列の気筒数をN、気筒番号をn、ストロークをS、サブロッドの取り付け半径をS'、マスターロッドが接続されている気筒のクランクの回転角をαとすると、各気筒が上死点の時のαは以下の様に表せます。
sxn,syn sx0,sy0 lxn,lyn lx0,ly0 SVGの代替画像
\alpha = \frac{360n}{N}
この時のマスターロッドの中心は座標は以下の様に表せます
lx_0=\frac{S}{2}\sin \alpha
ly_0=\frac{S}{2}\cos \alpha
マスターロッドの長さがCの場合、マスターロッドの傾きは、
\beta = \sin^-1 \frac{lx_0}{C}
n気筒目の大端部の座標は
\gamma=\frac{360n}{N}
lx_n=lx_0+S' \sin(-\beta+\gamma)
ly_n=ly_0+S' \cos(-\beta+\gamma)
小端部はシリンダにより上下方向に動くので、座標のxが決まればyは
y=\frac{x}{ \tan \gamma}
で表せる。
一方、サブロッド長をCnとすると小端部と大端部の距離はCnなので以下の様に表せる
(x-lx_n)^2+(y-ly_n)^2=C_n^2
連立方程式としてxを解く。
(x-lx_n)^2+(\frac{x}{ \tan \gamma} -ly_n)^2=C_n^2
x^2-2 x \cdot lx_n+lx_n^2+\frac{x^2}{ \tan^2 \gamma} -\frac{2 x \cdot ly_n}{ \tan \gamma} +ly_n^2=C_n^2
x^2 +\frac{x^2}{ \tan^2 \gamma} -2 x \cdot lx_n -\frac{2 x \cdot ly_n }{\tan \gamma}+ly_n^2+lx_n^2-C_n^2=0
解の公式に代入してxを解く
a=1+\frac{1}{\tan^2 \gamma}
b=-2lx_n-\frac{2 \cdot ly_n }{\tan \gamma}
c=ly_n^2+lx_n^2-C_n^2
x1=\frac{-b+\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
x2=\frac{-b-\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
nがN/2より小さいときはx1、大きいときはx2が小端部のX座標であるSxnとなる。
Y座標は、以下のように表せる
Sy_n=\frac{Sx_n}{ \tan \gamma}
クランクシャフト中心からの距離は以下のように表せる。
r_n=\sqrt{{Sx_n}^2+{Sy_n}^2}
マスターロッド軸間長さ、サブロッド軸間長さ サブロッド取り付け半径 とした場合の7気筒のうちマスターロッドおよび1,2,3気筒の小端部の位置をグラフにした。
-75 75 0 360度 SVGの代替画像

栄21型の燃焼室容積

V_s=15 \frac{\pi 13^2}{4}=1990.984
C=\frac{V_s+V_c}{V_c}=7.2=\frac{1990.84+V_c}{V_c}
7.2V_c=1190.84+V_c
7.2V_c-V_c=1190.84
V_c=\frac{1190.84}{6.2}=321.1265
クランク角に対して各気筒の上死点・下死点位置の角度がずれ、かつ上死点・下死点高さもずれている。
気筒
番号
上死点 下死点 ストローク 圧縮比
位置 位置
()内の角度は、360度を気筒数で割り気筒番号を乗じた値です。

各気筒のサブロッド長を同一にし取り付け半径を調整する場合

最大の上死点位置の角度αにおいて、サブロッド長を固定しマスターロッドの取り付け半径S'を求める。
この時のマスターロッドの中心は座標は以下の様に表せます
lx_0=\frac{S}{2}\sin \alpha
ly_0=\frac{S}{2}\cos \alpha
マスターロッドの長さがCの場合、マスターロッドの傾きは、
\beta = \sin^-1 \frac{lx_0}{C}
n気筒目の大端部の座標は
\gamma=\frac{360n}{N}
n気筒目の上死点時の小端部の座標(Sxn,Syn)は、
{Sx}_n =(C+\frac{S}{2}) \sin \frac{360 n}{N}
{Sy}_n =(C+\frac{S}{2}) \cos \frac{360 n}{N}
\epsilon=\tan ^{-1} \frac{ {Sx}_n - {lx}_n }{{Sy}_n - {ly}_n}
L=\sqrt {( {Sx}_n - {lx}_0 )^2 + ( {Sy}_n - {ly}_0 )^2}
\zeta= -\beta+\gamma
\eta=\epsilon - \zeta
(L - S_n \cos \eta)^2+S_n ^2 \sin ^2 \eta={C_n}^2
L^2 -2 L \cdot S_n \cos \eta + S_n ^2 \cos ^2 \eta +S_n ^2 \sin ^2 \eta-{C_n}^2=0
(\cos ^2 \eta+\sin ^2 \eta)S_n ^2 -2 L \cdot S_n \cos \eta +L^2 -{C_n}^2=0
a=1
b=-2 L \cos \eta
c=L^2 -{C_n}^2
S_n=\frac{-b \pm \sqrt{b^2-4ac} }{2a}
マスターロッド軸間長さ、サブロッド軸間長さ サブロッド取り付け半径、 とした場合の7気筒のうちマスターロッドおよび1,2,3気筒の小端部の位置をグラフにした。
-75 75 0 360度 SVGの代替画像
気筒
番号
上死点 下死点 ストローク 圧縮比 半径
位置 位置
()内の角度は、360度を気筒数で割り気筒番号を乗じた値です。
各気筒の上死点の位置を等間隔にするためには、サブロッドの長さを微妙に調整する必要があります。これはマスターロッドがクランクシャフトの角度により首ふり角度が異なるためです。
以下の図によりコンロッド・ピストンの動きをシミュレートすることができます。
回転ボタンをクリックするとフォームに入力されている角度に移動します。
自動回転ボタンをクリックすると自動的に左回転します。
STOPボタンをクリックすると自動回転が停止します。
左ボタンをクリックすると左方向へ4度回転します。
右ボタンをクリックすると右方向へ4度回転します。
角度θ=

SVGの代替画像

点火順序

1 2 3 4 5 6 7 SVGの代替画像 1 2 3 4 5 6 SVGの代替画像

奇数気筒

星形エンジンは一般的に1列は奇数気筒となっています。
4サイクルエンジンはクランクシャフトが2回転で全部の工程が終わります。
7気筒の場合、360/7=51.43度ごとにシリンダーが放射状に配置されます。
各気筒はマスターロッドとコンロッドで接続されているので51.43度ごとにずれて順番に動作します。
ただし、マスターロッドにサブロッドが接続されているので上死点が等間隔でないため若干点火時期も気筒ごとにずらす必要があります。
左回りとし左回りに1-2-3-4-5-6-7という順番で気筒番号を命名します。
この場合の点火順序は、360*2/7=102.86度となりますので、1-3-5-7-2-4-6となり等間隔となります。
点火コイルはエンジンの後端に2個あります。高圧ケーブルはシリンダ前部と後部は別々のコイルで栄エンジンは、1気筒あたり2つの点火プラグあり点火コイルも別々となっており信頼性を高めています。
7気筒以外の場合でも1個飛ばしに順番に点火をさせると等間隔で点火できます。気筒数をNとすると、カムの減速比は以下の式となります。
N-1
カム山の数は以下の式の結果を整数に切り捨てた値となります。
\frac{N-1}{2}
気筒数 列数 1列当り気筒数 カム減速比 カム山数 代表的なエンジン
3 1 3 2 1
5 1 5 4 2
7 1 7 6 3 神風
9 1 9 8 4 寿 光 R-1820サイクロン
14 2 7 6 3 栄 BMW801 R-1830ツインワスプ
18 1 9 8 4 誉 R-2800ダブルワスプ
28 4 7 6 3 R-4360ワスプメジャー
星形7気筒の点火間隔 1 2 3 4 5 6 7 0 720度 SVGの代替画像
2列のエンジンでは、1列目に対して2列目はクランクシャフトを中心に半気筒分ずらされています。
前の列が点火すると次は、後ろの列の180度ずれた気筒が点火します。

偶数気筒

例えば6気筒とした場合、360/6=60度ごとにシリンダーが放射状に配置されます。
各気筒はマスターロッドとコンロッドで接続されているので60度ごとにずれて順番に動作します。
左回りとし左回りに1-2-3-4-5-6という順番で気筒番号を命名します。
奇数気筒のように1個飛ばしで点火で4サイクルエンジンの点火順序は、360*2/6=120度となりますので、1-3-5-2-4-6又は1-3-5-6-2-4となります。
5-2間が180度、6-1間が60度又は、5-6間が60度、4-1間が180度となり不等間隔の爆発順序となります。
全気筒を1個のカム円盤で駆動すると上記の様な爆発順序は実現することができません。
複数のカム円盤を用いれば上記の様な爆発順序も可能とはなります。
等間隔とするには奇数気筒の様に1個飛ばしではなく、順番に点火させる必要があります。
この時の点火順序は1-2-3-4-5-6となります。
ただし、60度ごとに点火されますので、1-2-3-4-5-6- - - - - - といった感じでクランク1回転目に6個の気筒が全部爆発して次の1回転は休みとなります。
2サイクルの場合は、クランク回転1回ごとに全部の気筒が爆発するので等間隔となりえます。
4サイクルのカムの減速比は通常の星形以外のエンジンと同様に2とします。
2列のエンジンでは、1回転目が前列の気筒、2回転目が後列の気筒のように点火させます。
星形6気筒の点火間隔 1 2 3 4 5 6 0 720度 SVGの代替画像

バルブ(動弁系)

4サイクルエンジンはクランクシャフトが2回転で全部の工程が終わります。
7気筒の場合、360/7=51.43度ごとにシリンダーが放射状に配置されます。
各気筒はマスターロッドとコンロッドで接続されているので51.43度ごとにずれて順番に動作します。
ただし、マスターロッドにサブロッドが接続されているので上死点が等間隔でないため若干時期をずらす必要があるので、カムの取り出し位置等で調整されています。
吸気と排気それぞれ別の円形のカムで駆動します。複列エンジンの場合、それぞれにカムを用意しています。栄エンジンの場合、エンジンの前後にカムがあります。
カムの凹凸はローラーが付いたプッシュロッドで拾いロッカーアームによりバルブを駆動します。
星形エンジンの中心から放射状にプッシュロッドが伸びるどくどくの容姿を醸し出します。
10° 25° 10° 70° 排気バルブ 吸気バルブ 上死点(TDC) 下死点(BDC) SVGの代替画像

吸気バルブ開タイミング

1 2 3 4 5 6 7 0 90 180 270 360 450 540 630 720 SVGの代替画像

排気バルブ開タイミング

1 2 3 4 5 6 7 0 90 180 270 360 450 540 630 720 SVGの代替画像
7気筒の場合、例えばバルブのタイミングを見るとある角度では同時に3個の気筒のバルブの開閉を制御する必要があります。
1個のカムで制御するには、4ストロークですので2回転で4工程が終了するため、カムの回転速度は、エンジン出力の1/2/3=1/6にする必要があります。
7気筒の場合、等間隔で燃焼できるので、カムの360/3=120度に1気筒分の4工程分のバルブの開閉を刻みそれをカム全周で3個用意すればよいことになります。

SVGの代替画像
カムは歯車で減速されて駆動されます。
下図では真ん中のギアがクランクシャフトにより回転します。
歯数は、クランクシャフト側が47歯で47歯の歯車を駆動しその歯車は17歯の歯車と繋がっています。
17歯の歯車で102歯の内歯車を駆動しますので102/17=6分の1の回転数となります。 カムはクランクシャフトと逆回転します。
図の青色が吸気系、赤色が排気系を示しています。

過給機

標高が高くなる気圧が下がるので酸素密度が低下します。
標高と気圧の関係は以下のページを参照してください。
標高から気圧・温度を求める
地上の気温が25℃で気圧が1013hPaの場合、標高5600mでは552.87 hPaとなり地上の約半分となります。 単純に排気量が半分のエンジンというイメージになります。
排気量低下分を補うために過給機を使用しています。排気圧を使用するターボチャージャーに比べてスーパーチャージャはエンジンの動力を使用していますので効率が悪くなりますが、製作が楽となります。
星形エンジンには一般的に遠心力式のスーパーチャージャが用いられます。過給圧を稼ぐためにエンジン回転をギアで増速しています。変速比が2段切り替えの場合は2速式と呼ばれます。
スーパーチャージャーを1個使用する場合は1段、スーパーチャージャーで過給した吸気を更にスーパーチャージャーで過給する場合は2段式と呼ばれています。
増速比の選択は湿式多板クラッチを使用しています。
増速比は以下の通り想像を絶する比率となっています。
1速 6.37
2速 8.44
例えば2速でエンジン回転が2700rpmの場合、スーパーチャージャーは
2700 \times 8.44=22788rpm
という高回転となります。まあターボチャージャーに比べれば1桁違いますが。
遠心式ですのでターボの羽と似た形状となっていますが羽を回すのはエンジンの回転を増速したものであるというのがターボとの相違です。
SVGの代替画像 SVGの代替画像
回転ボタンをクリックすると羽根車が回転します。
停止ボタンをクリックすると羽根車の回転が停止します。
1速ボタンをクリックすると断面図の1速用の湿式クラッチを接続します。
2速ボタンをクリックすると断面図の2速用の湿式クラッチを接続します。
ちなみに羽根車をインペラーといいます。直径は305ミリです。
インペラーが回転することにより空気が加速されます。加速された空気は中心部から外側に向かって流れます。
インペラーの外側の羽がディフューザー(Diffuser)と呼ばれ、ここで加速された空気は圧縮されます。ディフェーザーの先に各気筒のインテークパイプが接続されています。

減速機

SVGの代替画像
上図は歯車を円に見立てて減速機を図示しています。
遊星歯車を使用してエンジン回転数を減速してプロペラを駆動します。
太陽歯車を固定、内歯車をエンジンが駆動、遊星キャリアがプロペラ側となっています。
速度比は0.5833です。
遊星歯車機構(ソーラー型)の場合、
太陽歯車の歯数をZa、内歯車の歯数をZcの場合の速度比は以下の式で表せます。
\frac{Z_c }{Z_a +Z_c }

栄21型エンジン(ハ115)

零戦の中で最も生産されたのがA6M5型です。そのエンジンの諸元を以下に示します。

栄21型エンジン(ハ115) 零式艦上戦闘機五二型(A6M5)

項目
ボア 130
ストローク 150
形式 空冷複列星型14気筒
排気量 27.86L
バルブ挟み角 75度
圧縮比 7.2
公称馬力 離昇1,130hp 1速全開 1100 hp / 2,700rpm / ブースト+200 mmhg (高度2,850 m)
2速全開 980 hp / 2,700rpm / ブースト+200 mmhg (高度6,000 m)
減速比 0.5833
全長 1,313mm
直径 1,150mm
点火時期 BTDC上死点前25度
過給機 305mm
吸気始 BTDC上死点前 10°
吸気終 ABDC下死点後 10°
排気始 BTDC上死点前 70°
排気終 ABDC下死点後 25°

ちなみに馬力はトルクと回転数から以下の式で計算できます。
PS=\frac{2 \pi T \cdot N}{60 \cdot 75}
最大出力時の馬力よりトルクを求めると以下の値となります。
T= \frac{60 \times 75 PS }{2 \pi N}=\frac{60 \times 75 \times 1130}{2 \pi \times 2700}=299.7 kg \cdot m